X線CTスキャン解説

4. アーチファクトに注意しよう

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アーチファクトとは

CTスキャンは、外側からは見ることができない内部の構造を、物体を破壊することなく知ることができる、きわめて便利な技術です。
医療から工業製品の検査まで幅広く利用されています。

しかし、CTスキャンにも難点があります。そのうちの一つが、さまざまなアーチファクト(artifacts、実際の物体ではない二次的に発生した画像)の出現です。
CTスキャン装置の特徴、撮影条件、物体の形状や密度、再構成法などにより、発生するアーチファクトの種類や強さがそれぞれ異なります。ですから、質の高いCT画像を得るには、撮影条件などに関する事前の十分な検討が必須です。また、CT画像を学術研究に利用する際には、アーチファクトの存在についてあらかじめ了解しておかなくてはなりません。

アーチファクトにはパターンに応じた名前がつけられていることがあります。以下では、リングアーチファクト、ビームハードニングアーチファクト、ストリーク状アーチファクト、メタルアーチファクトについて解説します。

リングアーチファクト

リングアーチファクト

リングアーチファクト


アーチファクトのパターン:同心円状の非常に細い線。画像中心部ほど線が目立つ。 
原因と特徴:X線検出素子の感度補正が不適切なときに発生します。
対策:撮影条件や画像再構成法の工夫により、大幅に減少します。校正データ(試料を置かずに撮影した画像や、暗電流起因の画像)の撮影しなおしも効果があります。
年輪などの同心円状の構造を測定するときは、回転ステージ台の中心に標本を置かないほうが無難です。
CT再構成ソフトウェアにはしばしば、アーチファクトを減らす機能が搭載されています。

ビームハードニングアーチファクト

以下の2つの原因により、ビームハードニングアーチファクトが発生します。

  • X線管から放出されるX線には、さまざまなエネルギーのものが含まれている(X線管の説明を参照)。
  • X線エネルギーが低いほど、物質の吸収係数は高くなる(X線吸収係数の説明を参照)。

X線が物質を通過するさい、高いエネルギーをもつX線よりも低いエネルギーをもつX線のほうが、より多く吸収されます。そのため、X線のエネルギー分布は少しずつ高いほうにシフトしていきます。

ビームハードニング

X線エネルギー分布の変化


エネルギーが高い、という状態を専門用語で硬い(hard)と表現するため、ビームハードニング(beam hardening)と呼ばれています。

特徴:同じ物質・密度であるにもかかわらず、断面画像の画素値が一定になりません。円柱試料の場合、中央部の画素値が相対的に低くなります。

ビームハードニングアーチファクト

ビームハードニングアーチファクト

対策:管電圧を高くし、かつ金属フィルタ(銅の薄い板など)を通して撮影しましょう。標本の向きや配置を工夫するのも効果があります。
CT再構成ソフトウェアにより、アーチファクトを低減することも可能です。 

ストリーク状アーチファクト

ストリーク状アーチファクト

浮遊性有孔虫化石の断面画像


アーチファクトのパターン:はっきりとした直線状 
原因と特徴:ひとつの透過画像において、あるX線検出素子に対応する画素値が異常値だった場合に発生します。頻度は高くありません。 
対策:透過画像中の該当箇所の画素値をメディアンフィルタ等で補正し、再構成をやりなおしましょう。

メタルアーチファクト

メタルアーチファクト

メタルアーチファクト


アーチファクトのパターン:直線状のややぼやけた像。 
特徴:樹脂などのX線吸収係数が低い物質中に金属などのX線吸収係数が非常に高い物質が存在するときに、X線吸収係数が低い方に着目すると生じます。化石の場合、殻の中に混入した鉱物や、頭骨中のエナメル質が発達した歯などに注意が必要です。
原因:ビームハードニング、散乱、屈折等のアーチファクトの集合体です。
たとえば、X線のエネルギーが 80keV のとき、鉄(Fe, 密度7.87)の線源弱係数は 36.9、ポリウレタン(NHCO, 密度1.00)の線源弱係数は 0.168、となります。特定の撮影対象から生じるアーチファクトはおおよそ線源弱係数に比例すると考えてよいので、ここでは仮に、アーチファクトを線源弱係数の 1%相当量とします。鉄からは 36.9 x 0.01 = 0.369 のアーチファクトが生じ、この値は、ポリウレタンの線源弱係数のおよそ 2.2倍です。つまり、鉄から生じたさまざまなアーチファクトにより、ポリウレタンの再構成像が邪魔されて見えなくなってしまいます。
対策:画像再構成の際にメタルアーチファクト補正を行うことで、ある程度緩和できます。

その他のアーチファクト

試料回転台の芯ブレ・X線焦点の移動・撮影試料の変形によるモーションアーチファクト、撮影対象が撮影領域からはみ出すことにより生じるエリアオーバーアーチファクト、コーンビームのため撮影角度が足りなくなって生じるアーチファクト、試料内でのX線の散乱や屈折によるアーチファクト、X線管の焦点外X線によるアーチファクト、x線透過量が足りないことによるアーチファクト、X線検出器内での残像によるアーチファクト、などなど、他にもさまざまな原因によりアーチファクトが生じます。

X線CTは奥が深いです。

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3. CT再構成—断面画像を得る方法

CTスキャン解説について
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last update: 2023/10/29

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